大きくても小さくても花火の原理は変わらない。
もうすぐ花火大会。
あちこちでそんな声が聞こえてくる。
無視するわけにもいかない。
「もうすぐ花火大会だね」
キコはソファに座ってスマホをいじるハルマに言う。
「ああ、そうなんだ」
ハルマは指を止めることなく答える。
キコはわかっている。
ハルマには花火大会に行く気がないことを。
そして、ふたりで行けるはずもないことを。
キコは何も言わずに、ただ流れるテレビの画面を眺める。
「行きたいの?」
ハルマは指を止め、キコの顔を覗き込む。
「別に」
キコは視線を合わせることなく言う。
「ごめんな」
ハルマはソファに沈み込む。
「別にいいよ。ただ、みんなが言っていたから私も言ってみただけだから」
キコはハルマに口づけする。
「今日は早く帰らなくていいの?」
キコはハルマのスマホに目を落とす。
「ああ、少しくらいなら大丈夫。ちょっとコンビニ行ってくるわ。何かいる?」
「いらない」
ハルマはスマホを持って出て行った。
キコは知っている。
ハルマは、きっと、家に連絡していることを。
ハルマの家族が待っている家へ。
知っているけど、言わない。
知っているけど、知らないふり。
それはキコ自身が決めた、キコのルール。
キコのスマホが鳴る。
画面はハルマを表示している。
「どうしたの?」
「ちょっと前の公園まで来て」
「なんで?」
「いいから」
キコはゆっくり立ち上がり、公園へと向かう。
「あんまりいいのなかったけど…」
公園で立っているハルマの下に、小さな花火セットが置いてある。
「どうしたの、これ?」
「花火大会には行けないけど」
ハルマは笑う。
キコも少しだけ笑う。
キコは細い線香花火を手に取る。
なかなかうまく火がつかないけれど、何度かチャレンジするとようやくついた。
「きれいだね」
ハルマが言う。
キコはなにも言わず、花火を見つめる。
小さな火花が飛んでいる。
あちこちに小さな火花がついたり消えたり。
ハルマは大きな花火に火をつける。
「けっこうきれいだな」
なんて言ってはしゃいでいる。
キコは花火を見つめる。
火種が落ちるまで、あちこちに飛ぶ火花を、じっと見つめた。