仇以外で恩を返す。
恩返しをしたいのだけど。
私はなにも持っていない。
あなたに差し出せるものは、なにもない。
素敵なアクセサリーも高価な洋服も。
美味しいお酒は知らないし、誰も知らないようなお店も知らない。
恩返しをしたいのだけど。
お金はないし、特別なスキルもないし、独創的な発想もできない。
サプライズなんて意味がわからないし、粋な仕草もできない。
感謝の気持ちはあるけれど。
表現方法がわからない。
私はどこまでも凡人で、あなたとは決定的に違う。
私が与えられるものはただひとつ。
私の時間をあなたに差し出す。
私はどこまでも凡人だけど。
私はなにも持っていないけれど。
時間だけは持っているの。
私の時間を差し上げる。
だから、もう少しだけ待っていて。
恩は必ず返すから。
恩返しの形を考えさせて。
私の時間の中で。
あなたの時間の中で。
時間だけが私の手持ち。
その時が来るまで楽しみにしていて。
あなたの時間に私の時間を組み込んで。
私の時間を差し上げる。
それが私の今できる、ただひとつの恩返し。