雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

ノロイのヨロイのウレイ。

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タカマサは宝箱を見つけた。

 

ずっと探していた。

苦労して、やっと。

 

宝箱の中には、鎧が入っていた。

 

鎧の横に説明書が入っている。

ノロイのヨロイ。

この鎧の名前。

 

この鎧を身につけると、傷を負わなくなる。

この鎧を一度身につけると、脱ぎ捨てるには相当苦労する。

 

説明書にはそう書かれてある。

 

タカマサは躊躇することなく、ノロイのヨロイを身につけた。

 

これでもう大丈夫。

もうこれ以上、傷つかずに済む。

 

これまでたくさん傷ついてきた。

傷はいつか癒える、なんて言うけれど。

 

その傷が癒えたとしても、すぐに新たな傷を負う。

その傷が癒える前に、新たな傷を負う。

 

その繰り返し。

 

いつだって満身創痍。

 

でも、これでもう大丈夫。

 

新たな傷を負う心配はない。

ノロイのヨロイを身につければ、もう、どんな傷も負うことはない。

 

タカマサはひとり喜ぶ。

タカマサはひとり傷が癒えるのを待つ。

 

時間と共に、これまでに負った傷が癒えていく。

 

タカマサは喜ぶ。

ひとりで喜ぶ。

ひとりでしか喜べない。

 

ノロイのヨロイを身につけたら。

新たな傷を負うことはない。

 

なぜなら。

 

傷を負う可能性がある所へは行かなくなるから。

傷を負う可能性が少しでもある行動はしなくなるから。

 

傷を負わない理由。

ノロイのヨロイの正体。

 

タカマサはひとりぼっち。

 

他の誰かと関わると、傷を負う可能性があるから。

ノロイのヨロイの力で、誰とも触れ合うことなく時間が過ぎる。

 

タカマサは部屋でひとり傷を癒す。

これまで受けた傷はすっかり癒えた。

新たな傷を負うことは、もうない。

 

タカマサはノロイのヨロイを脱ごうとする。

寂しさに耐え切れなくなって。

 

しかし、なかなか脱ぐことができない。

 

ノロイのヨロイを一度身につけると、脱ぎ捨てるには相当苦労する。

説明書に書いてあった一文を思い出す。

 

どれだけ力を入れても、ノロイのヨロイを脱ぎ捨てることができない。

これまでに受けた傷を癒すには、もう十分すぎる時間が過ぎているのに。

 

後悔しても、もう遅い。

 

ノロイのヨロイを身につけたタカマサ。

 

傷ひとつ負うことのないヨロイを手に入れた代償として。

傷ひとつ負うことなく、ひとり傷ついている。