好き嫌いは表裏一体。
渋滞は嫌い。
好きな人なんて、きっといない。
目の前に並べられたテールランプの列。
やっと消えたと思ってもすぐに点く。
点いたと思ったらなかなか消えない。
同じ景色ばかり見せられて、時間だけが過ぎていく。
テールランプの明かりに包まれている人達は、みんな同じことを思うはず。
いつまでここにいるのだろう、と。
そして、テールランプの列から抜け出した先人達はどんな気持ちなのだろう、と。
いつかはわからないけど。
いつかは訪れる。
テールランプの列から抜け出す瞬間。
近い未来を思い浮かべて、時間だけが過ぎていく。
渋滞は嫌い。
そして、渋滞にはまる自分も嫌い。
こうなることはわかっているのに。
この時間にここを通ればこうなることはわかっているのに。
この時間にここを通るしかない私。
何も自由はない。
他に選択肢はない。
わかっているくせに渋滞にはまる私には、そんなものはない。
いつだってその他大勢の中のひとり。
この渋滞の中にいるのと、同じ。
渋滞は嫌い。
でも、今はちょっと違う。
渋滞が嫌いじゃない。
渋滞にどれだけはまってもいい。
その他大勢の中にいてもいい。
早く帰らなくてもいい。
テールランプに包まれたままでいい。
時間だけが過ぎていってもいい。
今だけは。
あとどのくらいここにいられるのか。
近い未来を思い浮かべる。
思い浮かべたものよりも、ほんの少しでいい。
ほんの少しだけ、長くいさせてほしい。
運転するあなたの隣にいさせてほしい。
いつかはわからないけど。
いつかは訪れる。
テールランプの列から抜け出す瞬間。
それまでは、くだらない話をもう少しだけさせてほしい。
近い未来を思い浮かべながら、あなたと笑い合いたい。
必ずやってくる近い未来でも、あなたと笑っていたいから。
今だけ、私は、渋滞が好き。