雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

母の日が年に一度では少なすぎる。

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手が冷たい人って心が温かい、って聞いた。

 

わたしの手はどうなのだろう。

自分じゃよくわからない。

いろんなところをペタペタ触る。

 

「こらっ、何してるの!」

おかあさんに叱られた。

いつも叱られてばかり。

 

わたしの手が温かいか調べただけなのに。

 

「ちゃんと片付けたの?」

おかあさんに叱られた。

また叱られた。

 

遊んでいたけど、急に調べたくなっただけなのに。

どうせまた後で遊ぶし。

 

おかあさんはいつも怒っている。

きっといつも忙しいからだ。

 

ごはん作ったり。

洗濯したり。

掃除したり。

 

おかあさんはいつも忙しそう。

 

食器洗ったり。

買い物行ったり。

洗濯物をたたんだり。

 

おかあさんはいつも最後。

 

わたしのことが終わってから。

おとうさんのことが終わってから。

ようやく、おかあさんの番。

 

わたしはおかあさんの好きな食べ物を知らない。

 

わたしの好きな食べ物はもちろん知っている。

おとうさんの好きな食べ物も知っている。

だっていつもおかあさんが作ってくれるから。

でも、おかあさんの好きな食べ物は、知らない。

 

「わたしの手は冷たい?」

おかあさんの手を握って訊いてみる。

 

「あったかいよ」

おかあさんは嬉しそうに答える。

 

わたしは全然、嬉しくない。

 

だって、手が冷たい人って心が温かい、って聞いたから。

 

だって、おかあさんの手はこんなに冷たいのに。

 

だから温める。

せめて手だけでも。

わたしの手でおかあさんの手を温めてあげる。

 

大きくなったらわたしもおかあさんみたいな手になれるかな。

おかあさんみたいな温かい心になれるかな。

 

おかあさんの手を、ギュッ、と握る。

 

わたしの手が冷たくなるように。

おかあさんの手が温かくなるように。