雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

ザッピングばかりの景色。

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車窓から流れる景色を見る。

 

美味しそうなごはん屋さん。

あんなところにあんな店が。

 

若いカップルが手をつないで歩いている。

私の初恋のあの人は今どこにいるのだろう。

 

裸の街路樹が少しだけ支度をはじめた。

24時間密着していたらそのたび春を感じられる。

 

ビルの合間からきれいな満月。

私の部屋からも見ることができるのだろうか。

 

良い香りが漂っていそうな花屋さんに人が集まっている。

みんなどこからやってきたのか。

 

車窓からいろんなものが流れていく。

 

橋の上から見える遠くの夜景。

この町の果てまで行ってみたい。

 

バックミラーに映る楽しげなふたり。

他人にとってはそうでなくてもふたりにとってはどれもがすべらない話。

 

もう少しで観たいドラマがはじまる。

ダッシュで帰らなくちゃ。

 

もう一度きれいな満月が見える。

明日は晴れそうだから、誰かと晴れトークかましたい。

 

隣を走る車から大音量の音楽が。

イントロでドンッとくるほどの音量に、思わず窓を閉める。

 

閉めた車窓から、私の顔が流れてくる。

薄暗く、疲れた顔。

私の顔ってこんなんだっけ?

車の中でつぶやく。

もう外は暗いし、仕事終わったばかりだし。

誰もいない車中で、誰かに言い訳をする。

 

いろんな景色が流れていくのに、私の顔は映ったまま。

はっきり映ったり、ぼやけたり。

 

あんまり見たくないから、もう一度窓を開ける。

 

嗚呼、早く帰ってゆっくりテレビが観たい。

 

冷たすぎない風が私の顔を撫でてくれる。

冷たすぎない風が春を運んできてくれる。