傷ついたら癒せばいい。
車をこすった。
右側のうしろ側。
内輪差。
車幅感覚がイマイチ。
いけると思ったのに。
どうしても最短距離のコースを選択してしまう。
ギリギリを攻めてしまう。
余裕がないせいなのか。
だから私はいつも傷だらけ。
生傷が絶えない。
机のあいだをすり抜けるように進んで太ももをぶつける。
伸びをして棚で手の甲をぶつける。
どこもかしこも、くねったところばかり。
真っ直ぐ見晴らしの良いところなんて、ほとんどない。
最短距離で行きたがるから。
寄り道したり道草食ったりなんてしない。
余裕も余白もゆとりも、なにもない。
いつだってギリギリを攻める。
そのせいでいつも傷だらけ。
生傷が絶えない。
こんなに見えているからだの輪郭ですら把握できていないのに。
見えない心の輪郭なんて把握できるはずもない。
ましてや、人の心の輪郭なんて。
いろんな物事との距離感が掴めずにいる。
近づきすぎて傷つき。
離れすぎては見失う。
いろいろ試行錯誤するけれど、ずっとうまくいかない。
そのせいでいつも傷だらけ。
生傷が絶えない。
車幅感覚がない。
うまくギリギリを通れたと思っても、内輪差でやられてしまう。
だからいつも傷だらけ。
距離感を掴めないまま。
距離を縮めすぎていろんなところを痛める。
距離をとりすぎていろんなものが見えなくなる。
生傷が絶えない。
やっと傷が治りかけたのに、すぐに新たな傷ができる。
だからといって、ずっと止まっているわけにはいかない。
止まったままだと、何も進まないから。
どれだけこすっても。
そのまま走るしかない。
なるべくこすらないように気をつけながら。
それでも、きっと、これからもこする。
見えない輪郭を想像しても、想像通りにはいかないから。
傷ついても大丈夫。
傷は癒えるから。
治りかけても新たな傷が。
その傷もまた癒す。
その繰り返し。
見えないものを見ようとしたって、しんどいだけだから。
それなら傷を癒すほうが、まだ楽。
車体は傷だらけ。
さっきつけた傷がどれなのか、わからないくらいに。