雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

差別をしないと思うことがすでに差別。

f:id:touou:20190302214340j:plain

 

昼食をいただく。

ランチ時のお店は人がいっぱいで忙しそうだ。

 

隣の席には小さな女の子とおかあさんが座っている。

「好き嫌いしちゃダメよ」

おかあさんが女の子に言う。

女の子はグリンピースだけを取り分けていた。

チャーハンに紛れたグリンピースだけを器用に。

ママの言うことは聞かないとね。

私は心の中でそう思いながら、横目で女の子を見る。

女の子が取り分けたグリンピースには、一粒も米がついていない。

本当に器用だな、と妙に感心した。

 

反対側の席では、スーツ姿の若い男性ふたりが座っている。

ふたりともくちゃくちゃと音をたてて食べながら、上司だか先輩だかの悪口を言っている。

いろいろ溜まっているのだろう。

大変だなと思いながら、声のボリュームが大きいなとも思う。

そして、くちゃくちゃ、という音も。

その上司か先輩が、この店にいないことを祈りながら、私は席を立った。

 

店の外に出ると車道に街宣カーが停まっていた。

スピーカーから女性の声が響く。

「差別のない世界を」

車の上につけられた看板にも同じ文言が書かれている。

歩きながら車の中をチラリと覗く。

録音したものを流しているのだろう。

運転席では中年の男が背もたれに全体重をかけ、スマホを触っていた。

 

そのまま歩いていくと、マンションのゴミ捨て場に座り込んでいるおばさんがいた。

ゴミ袋を開けながら、なにやらブツブツ言っている。

きっと分別していないゴミをおばさんが分別しているのだろう。

 

ゴミの分別は大変だよな、と思っていると、足元にはタバコの吸い殻が落ちていた。

最近めっきり減ったけれど、ゼロではない。

ほとんどの人は歩きタバコもポイ捨てもしないだろうに、ごく一部のマナーが悪い連中のせいで余計に肩身が狭くなっているのだろうと思う。

 

町にはいろんな人がいる。

 

奇抜な髪型の人。

ピアスだらけの人。

道のど真ん中を歩く人。

自転車で並走する人。

大声で話す人。

腹が出ているのにタイトな服を着ている人。

スマホばかり見ている人。

 

さっきの街宣カーがこっちに走ってきた。

 

「差別をなくそう!差別のない世界を」

 

スピーカーから流れる女性の声が響く。

街宣カーはゆっくりと車道を走っている。

 

町行く人々のうち、何人かは街宣カーに目をやる。

あのボリュームなら気になるだろう。

 

街宣カーの声は、町の中へと消えていく。

ほとんどの人の耳をすり抜けながら。

 

町行く人々のほとんどは、街宣カーに目もくれない。

 

町行く人々の誰もが、私のことなど見ないように。