差別をしないと思うことがすでに差別。
昼食をいただく。
ランチ時のお店は人がいっぱいで忙しそうだ。
隣の席には小さな女の子とおかあさんが座っている。
「好き嫌いしちゃダメよ」
おかあさんが女の子に言う。
女の子はグリンピースだけを取り分けていた。
チャーハンに紛れたグリンピースだけを器用に。
ママの言うことは聞かないとね。
私は心の中でそう思いながら、横目で女の子を見る。
女の子が取り分けたグリンピースには、一粒も米がついていない。
本当に器用だな、と妙に感心した。
反対側の席では、スーツ姿の若い男性ふたりが座っている。
ふたりともくちゃくちゃと音をたてて食べながら、上司だか先輩だかの悪口を言っている。
いろいろ溜まっているのだろう。
大変だなと思いながら、声のボリュームが大きいなとも思う。
そして、くちゃくちゃ、という音も。
その上司か先輩が、この店にいないことを祈りながら、私は席を立った。
店の外に出ると車道に街宣カーが停まっていた。
スピーカーから女性の声が響く。
「差別のない世界を」
車の上につけられた看板にも同じ文言が書かれている。
歩きながら車の中をチラリと覗く。
録音したものを流しているのだろう。
運転席では中年の男が背もたれに全体重をかけ、スマホを触っていた。
そのまま歩いていくと、マンションのゴミ捨て場に座り込んでいるおばさんがいた。
ゴミ袋を開けながら、なにやらブツブツ言っている。
きっと分別していないゴミをおばさんが分別しているのだろう。
ゴミの分別は大変だよな、と思っていると、足元にはタバコの吸い殻が落ちていた。
最近めっきり減ったけれど、ゼロではない。
ほとんどの人は歩きタバコもポイ捨てもしないだろうに、ごく一部のマナーが悪い連中のせいで余計に肩身が狭くなっているのだろうと思う。
町にはいろんな人がいる。
奇抜な髪型の人。
ピアスだらけの人。
道のど真ん中を歩く人。
自転車で並走する人。
大声で話す人。
腹が出ているのにタイトな服を着ている人。
スマホばかり見ている人。
さっきの街宣カーがこっちに走ってきた。
「差別をなくそう!差別のない世界を」
スピーカーから流れる女性の声が響く。
街宣カーはゆっくりと車道を走っている。
町行く人々のうち、何人かは街宣カーに目をやる。
あのボリュームなら気になるだろう。
街宣カーの声は、町の中へと消えていく。
ほとんどの人の耳をすり抜けながら。
町行く人々のほとんどは、街宣カーに目もくれない。
町行く人々の誰もが、私のことなど見ないように。