変化球は強い直球があってこそ活きる。
いつもの行き道に猫がいない。
灰色の猫が。
きつそうな首輪をした猫が。
毎朝、ここに座っているのに。
いつものところに車が停まっていない。
白い車が。
汚れが目立つ車が。
その車の下が猫の居場所だったのに。
いつもいたのに。
だいたい同じ時間に毎日通るこの道に、猫も車もいない。
暑くても雨降りでも風が強くても、いつもいたのに今日はいない。
いつものおじいさんがいない。
夏でも冬でも全身黒い服に身を包んだおじいさんが。
いつも公園のベンチに腰かけてタバコを吸っているのに。
角の居酒屋の扉に貼り紙がある。
木造の居酒屋に。
しばらくお休みをいただきます、って。
何度も行ったことがある。
店主は不愛想だけど不愉快ではなく、味は確かだった。
昨日は貼ってなかったのに、何があったのだろう。
今朝だけでこんなにいつもと違うことが起こっている。
珍しい。
ほとんどの日は、ほとんど何も変わってないと思うから。
まったく何も変わらないとさえ、思うから。
気づかないことはたくさんあるのに、気づくことはいつも少し。
ずっと見れば見るほど、変化に気づきにくくなる。
気づいたときにはもう遅い、ってこともしばしば。
良いこともそうでないことも、いろんな変化に気づく人でありたい。
そこは変わらずにいたい。
変化することを恐れたらきっとダメ。
私もまわりもずっと同じなんてありえない。
そして、変化することに慣れてもきっとダメ。
当たり前だと思うことが、きっと一番ダメ。
明日私はこの道を再び通るのだろうか。
明日も灰色の猫を探すのだろうか。
明日になれば私は何が変わっているのだろうか。
晴れても雨降りでも、きっと私はどこかを歩いている。