人類最古の病にかかる。
からだの至るところで異変が起こっている。
なにか重大な病なのかもしれない。
怖い。
だから、いろんな病院を回ってみる。
まずは内科。
時々、胸のあたりがチクッとする。
最近はその頻度が高まっている。
特に異常は見当たりません。
医者はそう言う。
おかしいな。本当に痛くなるのに。
次は脳神経内科。
時々、急に手足がガクガク震える。
どこに行けばいいのか調べたら、脳神経内科だった。
なんだか、怖い。
特に異常は見当たりません。
医者はそう言う。
おかしいな。本当に震えるのに。
次は眼科。
なにもないのに、涙が勝手に流れる。
特に異常は見当たりません。
おかしいな。確かに涙は流れているのに。
次は精神科。
眠れない。いろんなことを、あれこれ、考えすぎて。
特に異常は見当たりません。
おかしいな。最近、全然眠れないのに。
どこもおかしくないのに、どこもおかしい。
怖い。
原因がわからないのが一番、怖い。
なんの病なのか。
病じゃないのに、こんなに異変が起こるなんて。
友人に相談する。
なんでも困ったときは相談に乗ってくれる、たったひとりの友人。
それって、あれだろ?
深刻な顔して相談したのに、タバコを吹かしながらサラリと友人は言う。
なに?
その症状が出るときの共通点があるだろ?
共通点?
共通点というより、共通する人物かな。
人物?
思い当たる人、いるだろ?
……ああ、まあ。
ひとりの人物が頭の中を駆け巡る。
笑ったまま駆け抜けていく。
それは、恋の病、だ。
恋の病?
ああ、そうだ。
どうしたら治る?
不治の病だ。一喜一憂を楽しむしか方法はない。
どうしたらいいんだよ。
幸いにも、からだに異常はないことがわかったんだ。まだ時間はたっぷりある。とにかく、いろいろ考えて行動して、苦しんで楽しめ。
薬は?
ない。どこの病院でも処方箋は出してくれないよ。自分でなんとかするしかないんだ。
友人は美味そうに、ニヤニヤしながらタバコを吹かす。