誰をも騙せる嘘はない。
演じるなんて嘘つきのやることだ。
あなたは言う。
誰だって演じている部分はあると思うけど。
私の言葉にあなたが頷くことはない。
そんなことないよ。
橙に染まった町の片隅をあなたは歩く。
伸びた影はあなた自身よりも長くなっている。
演じることが悪いことだとは思わないけど。
私の言葉を遮るように雲が陽を覆う。
怒ってるの?
怒ってないよ。
私とあなたの問答がいつまでも続く。
怒ってないよ、というあなたは演じているようだ。
そんなこと、あなたには言えないけれど。
昨日のこの町と今日のこの町。違いがどこだかわかる?
私の問いにあなたは足を止める。
すべてが違うよ。
あなたは呟く。
どっちが本当の姿なの?
今日だよ。
じゃあ、昨日のこの町は演じていたってこと?
いいや。昨日は昨日で本当の姿。今日は今日で本当の姿。
あなたが微笑んだ気がした。
ようやくあなたの横に辿り着いた。
大きな歩幅が、小さくなったから。
雲は晴れても、陽は小さくなっている。
なに食べようか?
あなたは言う。
私の前であなたを演じながら。
あなたは私に笑いかける。
あなたは私に嘘はつかない。
でも、あなた自身に嘘をついている。
私はそんなあなたに気づかない私を、演じている。