線の内側にお入りください。
線の内側にお入りください。
アナウンスが流れる。
こっちから向こうはダメ。
電車がやってきて危ないから。
誰かが決めた線がある。
超えたら罰が下る。
線の内側にお入りください。
アナウンスが流れる。
こっちから向こうはダメ。
一歩たりとも超えてはダメ。
許可なく超えてはダメ。
誰かが決めた線がある。
みんなそれを守っている。
勝手に超えたら国際問題。
勝手に超えたら罰が下る。
線の内側にお入りください。
アナウンスが流れる。
ここから向こうに行ってはダメ。
無意識の中で自分に言い聞かせる。
誰かではなく、自分が決めた線。
何があるかわからないから。
悲しいことが待っているかもしれないから。
見たことも行ったこともないけれど。
一線を越えたらダメ。
あの人のところへ行ってはダメ。
誰かが言っている。
私も言っている。
一線を越えたらダメ。
あっちへ行ったらダメ。
誰かが言っている。
私も同意する。
悲しいことが待っているから。
誰も私も、この線の向こう側を知らないのに。
行っても罰は下らないのに。
線の内側にお入りください。
みんなが聞いているアナウンスに、私も従う。
時折聞こえるアナウンスの声の主。
それは知らない人だったり、私だったり。