この世のほとんどは水でできている。
ヒロミは暗い部屋の中で頭を抱える。
うすい壁の向こうから、雨音が聞こえる。
雨が何かにぶつかる音。
雨の上を車が駆け抜ける音。
ヒロミは心拍数が下がっていくのを感じると、ゆっくりと立ち上がって風呂場へと向かった。
捨てるように服を脱ぐ。
いつもなら裏返しになった服を直すのに、今日はそのまま服を脱ぎ捨てる。
熱いシャワーを浴びる。
いつもより温度は高め。
イスに座り、目を閉じ、頭からシャワーを浴び続ける。
水道代もガス代も気にしない。
熱いお湯がからだを包み込む音しか聞こえない。
目を開けると、目の前には水の世界が広がっている。
ヒロミが風呂から上がっても、雨音は消えないでいた。
大してからだも頭も乾かさずに、そのままキッチンへと向かう。
棚からカップラーメンを取り出す。
蛇口をひねり、やかんいっぱいに水を入れる。
カップラーメンひとつに、そんなにお湯はいらないのに。
やかんたっぷりのお湯を沸かす。
腹は減る。
どんなときだって腹は減る。
悲しいけれど、腹は減る。
ヒロミは3分経つ前にカップラーメンを食べはじめる。
涙がこぼれる。
時折、むせる。
涙が止まらない。
水まわりは心地良い。
だから、泣いても大丈夫。
水を感じれば心が落ち着く。
見ても、触れても、聞いても。
だから、泣いても大丈夫。
ヒロミはそう自分に言い聞かせる。