帰巣本能が働くとき。
日が暮れてきた。
最近はすっかり日が暮れるのが遅くなって、もうこんな時間。
お腹が空いた。
朝も昼もしっかり食べたのに。
町を歩けば、あちこちから素敵な匂いが漂ってくる。
嗚呼、余計にお腹が空いてくる。
傷がしみる。
いろいろ傷ついた。
今日だけで。
見える傷も、見えない傷も。
ちゃんと癒さなくては。
ほんのり冷たい風が、傷にしみる。
寂しさが募る。
こんなに人も明かりもあるのに。
橙の空がすぐに消えるように。
何もかもが嘘のよう。
家に帰ろう。
家じゃなくてもいい。
帰ろう。
帰る場所は決まっている。
帰る場所はわかっている。
暗くなったから。
お腹が空いたから。
誰もいなくたって。
おかえり、と言われなくたって。
自分で言えばいい。
ただいま、と返せばいい。
傷を癒しに。
寂しさを埋めに。
嘘のようなところよりかは、幾分かマシ。
自分が一番、自分でいられるところへ。
帰る場所は探さなくても大丈夫。
帰巣本能が働くから。
帰る場所はいつだって自分の中にある。