好きな洋服を着たいだけ。
私は人形。
自分で好きな洋服を選ぶことができない。
自分の意思で動いてはいけない。
自分の力で動いてはいけない。
いつも洋服を着せられる。
私ではない誰かに。
着たくもない洋服を。
私にだって好みはある。
でも私には選べない。
私じゃない誰かが悩んで私に着せる。
ああでもない、こうでもない、って。
何十着と洋服を着せては脱がす。
何か違うよね…って。
私が選んだ訳じゃないから、私のせいにしないでよ。
行き交う人々は私の方を見ても、誰も私のことを見ない。
洋服ばかり。
私の方に手を差し出しても、誰も私には触れない。
洋服ばかり。
良いことも悪いことも、私のことには触れないくせに私のことのように言う。
誰も私のことなんて覚えていない。
私に洋服を着せる誰かだって、覚えていない。
私は自分の意思で動けない。
私は自分の力で動けない。
そんなことは許されない。
いつも誰かの意思で動いている。
いつも誰かの力で動いている。
それを納得している訳じゃない。
それを喜んでいる訳じゃない。
大きな箱の中で動いている。
ガラスの向こうに行くことはできない。
だから、せめて。
かわいい、と言ってほしい。
思ってなくても、口に出してほしい。
私もあなたも変わらない。
箱の中か外かの違い。
ガラスの向こうかこちらかの違い。
ただそれだけ。
誰も私のことなんて見ていないから。