次回予告の匙加減。
「次のも面白そうだよ」
ミツキはそう言いながら巻き戻しボタンを押す。
「……ん?」
私は半分閉じかけた目を開き、からだを起こす。
昨日レンタルしたDVDを観ながら、私は寝落ちしていた。
ミツキが言うには、はじまってすぐ寝ていたらしい。
ストーリーは終わり、エンドロールが流れ、最後に次回予告が流れる。
ミツキが私を起こしたのは次回予告が終わったときだった。
ミツキは巻き戻し、次回予告をはじめから流した。
「……」
私は何も言えなかった。
だって、今回を観ていないから。
はじまってすぐ、寝たから。
間の悪いことに、流れる次回予告は、なかなかのネタバレだった。
今回を観るまでは犯人が誰なのか、楽しみにしていたのに。
疲れと酒の力で、私と私のまぶたは力尽きていた。
「ね?」
ミツキは私が寝ていたことを忘れているかのように、悪気無くはしゃぐ。
「………」
私は何も言えない。
寝たのは私が悪い。
それでも次回予告でこんなネタバレをするだろうか。
次回予告を作った人間の人間性を疑う。
さらに間の悪いことに、続きも借りていた。
ミツキは次回予告が終わると同時に、次のDVDをケースから取り出し、デッキに入れる。
悪いのは私だ。
ミツキと一緒に観ていたら、この次回予告も違った印象になっていただろう。
悪いのは私だ。
だから、もう一回観ようよ、なんて言えない。
ミツキは観たばかり。
私は寝ていた。
私に選択権はない。
あいにく目は覚めた。
仕方なく、一話飛ばして、次を観る。
あとからひとりで観ようかと思ったが、気になることは気になる。
次回予告でこんなネタバレをするはずがない。
きっとミスリードを狙っているんだ。
そこから、きっと、大どんでん返しが待っているのだと。
DVDが再生される。
私はミツキほど楽しめていない。
というより、興味はミツキとは別のところにある。
ストーリーはもう諦めた。
一話飛ばしたら、よくわからなくなっていたから。
私の興味は本編と次回予告とのギャップだ。
話はどんどん進んでいく。
少しずつ、流れを理解できるようになった。
問題はそこからだ。
犯人は誰なのか。
とうとうクライマックス。
……犯人は。
……。
……。
……。
次回予告と同じだった。
…なんだこれ。
ミツキは満足そうにエンドロールを眺める。
きっと犯人の正体以外のところが見せ所のストーリーだったのだろう。
私は結局、最後までストーリーに入れないでいた。
たった一話。
されど一話。
寝て見過ごした話を今さら観る気にもならない。
エンドロールが終わっても、次回予告はなかった。
最終回だったから。
「面白かったね」
ミツキは笑っている。
「……」
私は何も言えず、笑顔を作った。
「もう一回観ようかな」
ミツキは相当気に入ったらしい。
「明日も仕事だから、もう寝るわ」
私はそう言って、布団へ向かう。
すっかり目は覚めてしまった。
眠くなど、まったくない。
でも、もう一度観る気などさらさら起きない。
おやすみ、と言って布団に潜りこむ。
頭の中では次回予告がぐるぐる回る。
何故?
何故、あんな作りに?
疑問しか出てこない。
誰に言っているのか、わからないまま。
次回予告なんていらない。
詳しい次回予告なんて。
長すぎる次回予告も。
推理物で犯人がわかる次回予告は論外。
本編超えちゃう次回予告なんていらない。
次回予告のクオリティーはバカにできない。
だから、もっと、さらっとしてほしい。
布団の中で目を強く瞑る。
次が来ればわかることを、今わかる必要はない。
わかりたい気持ちは、たしかにある。
それでも今はわからずにいても構わない。
本編を超える次回予告なんていらない。
本編を知ったときの感動が薄まるから。
次回予告なんていらない。
明日、何があるのかなんて誰も知らないから。
次回予告なんかなくても、十分明日を楽しめる。
寝て起きたら、本編がはじまる。
次回予告なんかなくても、明日を楽しめる。
明日は何が起こるのだろう。
次回予告なんて、いらない。