雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

次回予告の匙加減。

f:id:touou:20190331210711j:plain

 

「次のも面白そうだよ」

ミツキはそう言いながら巻き戻しボタンを押す。

 

「……ん?」

私は半分閉じかけた目を開き、からだを起こす。

 

昨日レンタルしたDVDを観ながら、私は寝落ちしていた。

ミツキが言うには、はじまってすぐ寝ていたらしい。

ストーリーは終わり、エンドロールが流れ、最後に次回予告が流れる。

 

ミツキが私を起こしたのは次回予告が終わったときだった。

 

ミツキは巻き戻し、次回予告をはじめから流した。

 

「……」

私は何も言えなかった。

だって、今回を観ていないから。

はじまってすぐ、寝たから。

 

間の悪いことに、流れる次回予告は、なかなかのネタバレだった。

今回を観るまでは犯人が誰なのか、楽しみにしていたのに。

疲れと酒の力で、私と私のまぶたは力尽きていた。

 

「ね?」

ミツキは私が寝ていたことを忘れているかのように、悪気無くはしゃぐ。

 

「………」

私は何も言えない。

 

寝たのは私が悪い。

それでも次回予告でこんなネタバレをするだろうか。

次回予告を作った人間の人間性を疑う。

 

さらに間の悪いことに、続きも借りていた。

ミツキは次回予告が終わると同時に、次のDVDをケースから取り出し、デッキに入れる。

 

悪いのは私だ。

ミツキと一緒に観ていたら、この次回予告も違った印象になっていただろう。

 

悪いのは私だ。

だから、もう一回観ようよ、なんて言えない。

ミツキは観たばかり。

私は寝ていた。

 

私に選択権はない。

 

あいにく目は覚めた。

仕方なく、一話飛ばして、次を観る。

あとからひとりで観ようかと思ったが、気になることは気になる。

 

次回予告でこんなネタバレをするはずがない。

きっとミスリードを狙っているんだ。

そこから、きっと、大どんでん返しが待っているのだと。

 

DVDが再生される。

 

私はミツキほど楽しめていない。

というより、興味はミツキとは別のところにある。

ストーリーはもう諦めた。

一話飛ばしたら、よくわからなくなっていたから。

 

私の興味は本編と次回予告とのギャップだ。

 

話はどんどん進んでいく。

少しずつ、流れを理解できるようになった。

 

問題はそこからだ。

 

犯人は誰なのか。

 

とうとうクライマックス。

 

……犯人は。

 

……。

 

……。

 

……。

 

次回予告と同じだった。

 

…なんだこれ。

 

ミツキは満足そうにエンドロールを眺める。

きっと犯人の正体以外のところが見せ所のストーリーだったのだろう。

 

私は結局、最後までストーリーに入れないでいた。

たった一話。

されど一話。

 

寝て見過ごした話を今さら観る気にもならない。

 

エンドロールが終わっても、次回予告はなかった。

 

最終回だったから。

 

「面白かったね」

ミツキは笑っている。

 

「……」

私は何も言えず、笑顔を作った。

 

「もう一回観ようかな」

ミツキは相当気に入ったらしい。

 

「明日も仕事だから、もう寝るわ」

私はそう言って、布団へ向かう。

すっかり目は覚めてしまった。

眠くなど、まったくない。

でも、もう一度観る気などさらさら起きない。

 

おやすみ、と言って布団に潜りこむ。

 

頭の中では次回予告がぐるぐる回る。

何故?

何故、あんな作りに?

 

疑問しか出てこない。

誰に言っているのか、わからないまま。

 

次回予告なんていらない。

 

詳しい次回予告なんて。

長すぎる次回予告も。

推理物で犯人がわかる次回予告は論外。

 

本編超えちゃう次回予告なんていらない。

 

次回予告のクオリティーはバカにできない。

だから、もっと、さらっとしてほしい。

 

布団の中で目を強く瞑る。

 

次が来ればわかることを、今わかる必要はない。

 

わかりたい気持ちは、たしかにある。

それでも今はわからずにいても構わない。

 

本編を超える次回予告なんていらない。

本編を知ったときの感動が薄まるから。

 

次回予告なんていらない。

 

明日、何があるのかなんて誰も知らないから。

 

次回予告なんかなくても、十分明日を楽しめる。

 

寝て起きたら、本編がはじまる。

 

次回予告なんかなくても、明日を楽しめる。

 

明日は何が起こるのだろう。

 

次回予告なんて、いらない。