雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

想像の斜め上下。

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ショッピングモールに買い物へ出かけた。

 

そこのショッピングモールは少し独特。

入っているお店は見たことあるお店ばかりだけど、飛行場の跡地をショッピングモールとして使っている。

 

だから内装は飛行場を意識したものになっているし、駐車場の隣には滑走路がある。

 

しかも、まだ使用されている。

さすがにジャンボジェットのような大型飛行機はいないけど、小型飛行機は離発着している。

 

小型飛行機と言っても、やはり近くで見ると大きい。

 

音も大きい。

 

迫力があるし、かっこいい。

 

私が買い物を後回しにしてそれらに見入っていると、隣に親子連れがやってきた。

お父さんと小さな男の子。

 

「かっこいいー」

小さな男の子が高い声を張り上げる。

フェンスをガシッと掴み、顔をくっつけて。

 

そうだよな。

と私は心の中で笑う。

小さな男の子にとっては、遊園地や公園より楽しいかもしれない。

 

飛行機のかっこよさ、迫力、ワクワク感、ゾワゾワ感、シュビドゥバ感、ったらありゃしない。

 

はしゃぐ男の子を横目に、私は大人の意地で心の中だけで叫ぶ。

 

「飛行機って、こんなに大きいんだね。いつもはあんなにちっちゃいのに」

男の子は夢の世界へと旅立っている。

目の前に広がる現実を基調とした夢の世界へ。

 

そうだよな。

私は心の中で納得する。

 

いつも見ている飛行機は、上空何千メートルを飛んでいる小さな飛行機。

目の前にあるのは、大型ではない小型飛行機だけど、それでも遥か彼方を飛んでいる飛行機に比べたら随分と大きい飛行機。

 

男の子のシュビドゥバ感、は最高潮だろう。

ずっと見ているから。

ずっと、すごーい、とか、かっこいいー、とか言っている。

 

はしゃぐ男の子を横目に、私は大人の対応で平静を装っている。

 

すると、男の子のお父さんがポツリと呟いた。

「飛行機ってこんなに小さかったっけ?」

 

ただの独り言だろう。

男の子に言ってもしょうがないし。

もちろん私に訊いているわけでもない。

初対面だし。

初対面というか、横に並んだだけだし。

 

そうだよな。

私は心の中で同調する。

 

お父さんはきっと大型飛行機も見たことあるし、乗ったこともあるし、小型飛行機を見たこともあるし、乗ったこともあるかもしれない。

いつも空で見かける小さな飛行機の本当の大きさを体感している。

でも、もしかしたら、最近は飛行機に乗っていないのかもしれない。

間近で見る機会がなかったのかもしれない。

 

頭の中で描いていた飛行機と目の前に見える飛行機にギャップがあってもおかしくない。

頭の中の記憶なんて、いくらでも更新されるから。

 

そうだよな。

私は心の中で再確認する。

 

目の前にあるものと、頭の中にあるもの。

目の前で起こったことと、頭の中で起こったこと。

 

それらにはすべてギャップがある。

まったく同じだなんて、そうそうない。

だから、ギャップを埋めていく。

だから、いろんなことをすり合わせていく。

 

そうやって、誰もが目の前にあるものに対処していく。

 

小さな男の子は、思っていたより大きかった飛行機。

お父さんは、思っていたより小さかった飛行機。

 

ふたりで同じ飛行機を見ているのに。

ふたりとも同じ飛行機を見て驚いたのに。

 

ふたりの間に、こんなにギャップがあるなんて。

 

滑走路の隣の駐車場の上空を。

遥か上空を。

小さな飛行機が飛んでいる。

 

あんなに高く。

あんなに小さく。

 

この男の子が、あの上空を飛んでいる飛行機を間近で見たらきっと驚くだろう。

目の前にある小型飛行機よりも遥かに大きな飛行機を。

 

はしゃぎ続ける男の子を横目に、私は大人の暇つぶしで想像して、小さく笑ってみる。

 

そろそろ次の暇つぶしで、買い物へ行こう。

どうか、思っているより素敵なものがありますように。