気になりはじめると止まらない。
コツコツ、コツ。
後ろのほうから足音が聞こえてくる。
何度か振り返ってみるが、人が多すぎて誰の足音なのかわからない。
ここにはいろんな足音がありすぎる。
誰かが近づいては私を抜き去り、誰かが遠ざかっては消えていく。
コツコツ、コツ。
後ろのほうから足音が聞こえてくる。
何度か振り返ってみるが、誰の足音なのかわからない。
さっきより人が減ったように思えるけど、それでもまだまだ人はいる。
ここにはいろんな足音がありすぎる。
これだけ人がいるのに、知っている人はひとりもいない。
コツコツ、コツ。
後ろのほうから足音が聞こえてくる。
何度か振り返ってみるが、誰の足音なのかわからない。
こんなに人が減っているのに。
それでも確実に、私のほうに近づいている。
私が止まると足音も止まる。
私が進むと足音が聞こえてくる。
私は誰かに後をつけられている。
私は誰かに追われている。
急ぎ足で歩いても、ずっと足音が聞こえてくる。
時折遠くなったり、急に近づいてきたり。
その度、振り返るけど確認できない。
誰が私の後をつけているのか、確認できない。
コツコツ、コツ。
ほら、また足音が聞こえてくる。
気づかないフリをして歩いていく。
気にしていないフリをして歩いていく。
そうすれば油断するでしょ。
だから急に振り返る。
コツコツ、コツ。
もう後ろには誰もいなくなっているのに、足音だけが聞こえてくる。
そうか。そういうことか。
コツコツ、コツ。
怖がらなくていいんだ。
後をつけられているわけではない。
追われているわけではない。
遠ざかったり近づいたり。
ここにはいろんな足音があるから。
気づかなくたってしょうがない。
ここにはいろんな足音があるから。
気にしなくなってもしょうがない。
コツコツ、コツ。
確かに近づいてきている。
振り返ったってわかるはずもない。
怖がるどころか、待ち遠しい。
あともう少しで、春がやってくる。